蒸し暑い夜だった。なにか冷たいものが飲みたくて、ロッテホテルのウィンザーバーに入った。ジャックダニエルのソーダ割りを頼むと同時に、顔見知りのピアノ弾きに好きなものをとドリンクを提供した。向うも心得たもので、ちらりとこちらを眺め私の好きな夜来香を弾き始める。ふと、カウンターの奥に目をやると全身黒ずくめの口の大きな女がいた。袖が透き通るブラウスにスリットの深い皮のミニスカート、素人は夏に穿かない黒いストッキング。どう見てもプロの女性だ。その彼女がこちらを向いて唇の端で微笑んだ。瞬間、ぞっとしたといっていい。あまりにも妖艶、あまりにもセクシーだった。私は惹きつけられるように彼女の脇に移り、朝鮮語で一杯どうかと声をかけたが少しどもってしまった。
「Are you real Japanese?」
外国人専門で在日韓国人もお断りだそうだ。どうやら面接はOKらしい。値段の交渉をした後、このホテルに部屋はあるかと聞く。北岳パークホテルに住んでいるといったら、しばらく考え込んでいた。
「住んでいるなら社長の名前くらい知っているでしょう?」
「具文會」
いやに慎重だ。コーティザンとはこういうものか。なんとか合格、レジに向かう前に彼女はさりげなくバーテンに一万ウォンを置いてきた。
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